「気になるの?」
オラクルが作業の手を休めぬまま、バットマンへそう声を掛けた。
「・・・いや、良く出来ていると思ってな」
彼の手の中には、小さな人形が納まっている。
黒髪、青と黒の服、黒いマスクという姿の人形だ。
卓上に置いてあったものを、何となく気になって取ってしまったのだ。オラクルに「彼を気にしている証拠よ」と言われるのが嫌で、わざと語尾を仄めかしたのだが。
「手作りか?」
「ええそうよ、暇潰しになるから」
あなたのも作ったんだから、と言いながら、オラクルは机の引き出しを開ける。確かにそこには、小さなダークナイトや驚異の少年が座っていた。
「今度はキャスと一緒にバットガールを作っているの。失敗作がそっちで眠っているわ」
「そうか」
ふと興味をそそられ、バットマンは彼女が指差す方向へと歩んだ。
機械か何かを詰めているらしい段ボールの上に、黒い猫のような、しかし鼠のようでもある何かが置いてある。手に取ると詰め物がよれて、首と推定される部分が大きく傾いだ。
綿が飛び出てしまったそれは、もはや人形と言える代物ではない。だがカッサンドラの悪戦苦闘ぶりを想像すると、バットマンの口元に微かな笑みが浮かんだ。
「・・・っ」
バットガール人形を置こうとした足に、コードの1つが絡みつき、彼は珍しく体勢を崩してしまった。その拍子につま先が段ボールへぶつかったらしい。フタが小さく開く。
閉めようと手を伸ばしたバットマンは、そこで、ぴたりと動きを止めた。
何故なら。
段ボールの中身はほぼ全て―――ナイトウィング人形であったからだ。
「!!?」
10個や20個ではないのだ。中型段ボールにぎっしり並べられいる所から考えるに、50は下るまい。いや、良く見ると2段構えになっているから、その倍はあるだろうか・・・・・・?
先程眺めていた人形と、サイズもディティールも変わらない。オラクルが嘘を吐いていないなら、全て彼女のお手製という事になる。
しかも段ボールはその1個のみではなかった。小型や大型と言ったサイズの差異はあるが、見積もって10個近い数がひっそりと座っているのだ。しかも全て、配送用紙をくっつけて。
「ブルース?」
「!」
「ちょっとこれについて聞きたいんだけど・・・」
「どれだ?」
段ボール達、いや、ナイトウィング人形のあて先を確かめる前に、バットマンは慌ててオラクルへ向き直った。彼女は気付いていないらしく、いつも通りの表情で情報の確認をしてくる。彼もそれに対して冷静に答えていった。
だがバットマンの頭は時計塔を出てからも、山盛りナイトウィング人形の事で占められていた。
後日。
時計塔から「スレイド様」、「ブロックバスター様」などと宛てられた段ボールが、大量に出て行った事など・・・
勿論、バットマンは知る由もなかった。