新バットスーツ伝説

「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!駄目!絶対に駄目ー!」
「ええい喧しい!」

 完成した新たなバットスーツを身に纏い、ブルースはクラークに対峙していた。
「この機能美を見ろ!以前より短いのに空を飛べるケープ!畏怖を呼び起こしかつ年齢も隠してしまう口元!遥かに動きやすくなったこのタイツ!どこが駄目だと言うんだ?!完璧だろう!しかもアルフレッドが老眼を酷使しながら、心を込めて作ったんだぞ!」
「…アルフレッドの努力には敬意を表そう、でもこのバットスーツは駄目だ!」
 そう叫ぶと同時に、クラークはブルースの体を引き寄せた。
「な、何を」
「こことか!こことか!ケープで隠されていた部分が丸見えじゃないか!肌との密着度も増しているし、こんな格好でゴッサムをうろついたら、どうなると思っているんだ?これじゃあ第2第3のジョーカーを産むだけだ!」
 喋りながら、クラークの手は腰や太腿の線を辿っていく。ブルースは身を竦め、声を荒げた。
「馬鹿かお前は…っ!み、妙なところを触るな!」
「それに」

 僅か数十センチ先に迫った青い瞳が、ブルースの目を覗き込む。その色に喉元まで迫った叫び声を押し戻し、次の言葉をブルースは待った。
 クラークの指先が、マスクに覆われた唇をなぞる。

「このマスクだと君にキスし辛い」
「…しなければ済む話だろうが」
「しなくて良いのかい?」
 一見いつもと変わらない、しかしブルースから見れば十分に性質の悪い笑みを、クラークは浮かべた。
 もう何年にも渡って見続けて来た彼の笑顔だが、見飽きる日は未だに訪れないでいる。気付けばブルースは僅かに唇を開いていた。
 目蓋を下ろしたクラークが近付いて来る。焦らすような緩やかさに眉を顰め、それでもブルースは彼と同じように目を閉じた。
 唇と唇が合わさり、舌が悪戯に潜り込む。
「……っ」
 クラークの手が背中から腹に移っていく。思わずブルースはクラークの腕に爪を立てた。が、性急な動きは止む事もなく、ブルースの新たなベルトに至る。
「待てクラーク、そこは……」

 万が一の事態に向け高圧電流を備えたベルトは、次の瞬間、その本領を遺憾なく発揮した。



 数分後。
「……まあ言いたい事は沢山あるけど、撃退装置が相変わらずで良かったよ」
「嫌味かそれは」
「まさか」
 痺れの残る手を振ってから、クラークは片目を瞑って見せた。
「ガードの固い恋人を持つと安心だ、って事さ」

 そのバットスーツとベルトは、数十年を経てある青年の手に渡るのだが――その際にも撃退装置が付いていたかは、定かではない。

マスクからのガスプシュー!も痴漢撃退装置だと信じています。

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