触った髪は、さらさらと指の間を零れ落ちた。洗っては乾かす事を繰り返した所為だろう。指を髪の中に潜らせ、そっと動かしていくと、ブルースが抗議するように呻いた。
「ごめん。怪我はここかい?」
「ああ」
 薄い小さな瓶だった、とは言うが、当たり所によっては命に関わる。分かっていた事だが、相手は余程立腹していたらしい。眉を寄せ、クラークはそこに唇を当てた。自業自得とは言えるものの、そこまでブルースを突き放し切れない自分は、矢張り甘いのかとも思う。
 代わりに、少しだけ乱暴に腰を引き寄せた。ブルースが傷だらけの背中を震わせる。髪の毛から唇を離し、珊瑚色に染まった耳朶を食むと、ひゅっと彼は息を呑んだ。
 繋がった箇所がきつく締め上げられ、クラークも堪らず熱い息を吐く。くすぐったそうにブルースは身を捩るが、クラークは耳朶から唇を離さなかった。
「昼の質問だけど」
「ん……?」
 体を繋いだ事で、互いに熱が広がり始めていた。それに気を取られているのか、はたまた疲れているのか、気の入らない声でブルースは相槌を打つ。出来れば前者であって欲しいと、そう思いながらクラークはゆっくりと腰を動かした。
「ちゃんとした答えが、聞きたい?」
「…っは……答えたく、なったのか?」
「まあ、ね」
 傷跡でざらつく背中を、クラークの手が撫で上げる。あの日のブルースも確か、同伴している女性の背を、こんな風に触っていた。金髪を高く結い上げ、大きなピアスを付けていた女性。着ていたドレスは薄い緑だったか、濃い赤だったか。鮮やかに覚えているのは、剥き出しのその背を撫で上げる、ブルースの長い指だ。
 その指は今、ブルース自身の歯に齧られている。クラークが揺する度に、強く強く、歯型が残るほど噛まれるのは不憫だが、罰だと思えば良い。
――僕にはあんな風に触ってくれない。
「クラーク……?」
 掠れた声で名前を呼ばれ、クラークは視線を下ろした。振り返ったブルースの目が、じっとこちらを見つめている。
「答える気に、なったんだろう?」
「…やっぱり、言わないでおこうかな」
「おい」
 ブルースの唇が綻んだ。つられるようにクラークも微笑み、そしてずるりと奥へ入り込む。高い声が上がった。
「皆の前で、キスをして」
「な…に、を」
 ベッドが軋む度に、2人の唇からも荒い息が零れていく。
「彼女より、僕の方が沢山キスしてる。ベッドの中で、こんな事もしている、って」
 仰け反った肩口に唇を落とし、弱い箇所を集中して突き上げると、ブルースは細い悲鳴を吐き出した。情事は戦闘に似ていると聞いた覚えはあるが、戦っている時のブルースはもっと我慢強い。ダメージを受けても低く呻く程度だ。
「ひっ……あぁっ!や、クラーク……!」
 だとすれば、こんな悲鳴を聞けるのは自分だけだと、ほんの少しクラークは自尊心を満足させる。
「何なら…っ、実演付きで、見せてやろうって」
「っあ!…馬鹿か、お前は…っん、そんな」
「ブルース」
 締め付ける熱い内部に、限界を感じながらクラークは囁いた。
「僕はいつでも、本気だよ」
「……!」
 その声に背中を押されたように、ブルースが達する。目尻に浮かんだ涙と、何度も収縮する中の動きに誘われ、クラークも熱を吐き出した。
 汗の浮かんだ背中に、べったり体を押し付けると、ブルースの鼓動音が伝わって来た。荒い呼吸を繰り返しながら、そっと耳朶に唇を当てると、同じように荒い呼吸の彼が振り返る。
「…真っ青になる話だろ?」
「確かに、お前が言うと、洒落にならん」
 徐々に冷えて来た額をくっ付ける。頭の怪我に差し支えないよう気を遣い、それでもクラークはブルースにキスをした。たっぷり時間を掛けて味わった後、顔を離すと、ブルースが濡れた唇を動かし、囁いて来る。
「だが……私も、似たような事を考えた経験はあるぞ」
「……君が言うと、もっと洒落にならないよ」
 わざと真剣な表情でクラークは答えた。楽しげに笑うと、今度はブルースから唇を寄せる。
――こんな事をされるのも、僕だけだ。
 そう思えば多少の事にも目を瞑れる。矢張り自分はブルースに甘いのだと、そう思いながらクラークは、熱いキスに応えていった。

独占欲は、どっちも強い割に押し殺すタイプだと思います。
そして超人蝙蝠でエロ書いたの初めて……!だ、大丈夫でしょうか。ハラハラ。

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