あさっての方向

　何か嫌な事でもあったのかい？
　だって、ほら、今日の君、おかしいじゃないか。
　ここに着くなりキスしてさ。何時もの君からは考えられないよ。それに、酷くして欲しいなんて言うし。
　…それは確かに、流された僕も悪いけど。
　でも、やっぱり何か嫌な事があったんだろう？無いって？じゃあどうして僕の方を向いてくれないんだい？
　ブルース。
　……分かったよ。騒ぎ立てて悪かった。だからちょっと位こちらを向いてくれないかな。不安なんだよ、君の顔が見られないと。あ、それとも恥ずかしいのかい？君は相変わらず照れ屋だなって痛い！痛いよブルース！蹴らないでくれ！！
　ああ痛かった……。
　ブルース？
　もう電気を消そうか？朝からメトロポリスなら疲れただろう。今ちょっとバスルームを片付けて来るから。それが終わったらすぐシャワーを浴びて、休んだ方が良い。
　そうだ、何か冷蔵庫から持って来ようか。結局何も口にしてないだろう？水とコーラと牛乳があるけど、どれが飲みたい？それともお湯を沸かしてコーヒー入れようか？あ、紅茶の方が良いかな。リプトンのキャラメルティーバッグを貰ったから、それでミルクティーでも作ろう。
　いらない？
　ああそう言えば、今日は美味しいベーカリーを教えて貰ったんだよ。取材した方が連れて行ってくれてね。君にも前に話した、農業機器の開発者だよ。綺麗な人だから君も知っているんじゃないか？…そうか、やっぱり農業関係とは少し遠いのかな。
　有能な人でね、まだ若いのに社の近くにオフィスを持っているんだ。凄いだろう？しかも彼女、珍しくスモールビルに近い町の出身で、僕を気に入ってくれたんだよ！お蔭で色んな話が聞けてさ。ベーカリーの店長さんが旦那さんだって話になって、2人で行ったんだ。ベーグルの味が素晴らしくてね。
　…あ、やっぱり美味しいとなると気になるだろう？
　大丈夫、ちゃんと君の分も買って来てあるよ。今から取って来るから待っててくれ。着いたらすぐ話そうと思っていたのに、君と来たら有無を言わせずあんな……
　え？
　いらないのかい？
　……そっちより僕が良いの？
　え、や、ううん、嫌じゃないよ。全然、嫌じゃないとも。でもさっきみたいなのはもう。
　ああ、今度は優しくね。
　なら喜んで。

　………

　ところでブルース。
　ベーカリーの近くに高級車が停まっていたんだけど、あれって、君？