「君は、青が良く似合うね」
丘の上に敷き詰められた枯れ葉が、その言葉を契機と受け取ったかのように舞い上がった。一斉に飛び散るそれらへ目を向けながら、クラークはにこにこと上機嫌に笑っている。
「…いきなり何だ」
今日のブルースの服に青は無い。薄手のコートもシャツもスラックスも、茶や黒ばかりで、青を連想させる物ひとつ纏ってはいなかった。
肩を並べて歩を進めながら、うん、と相槌のような同意のようなものをクラークは口中で呟く。
「見ていて思ったんだ。…ほら」
つい、とクラークが、人差し指をブルースの肩の向こうへと向ける。顔だけ振り向かせたブルースは、そこでようやく青に気付いた――海だ。
「凄く絵になっていたから」
君が、海を背負うのは。そう続けてクラークは、西風に生のままの髪を揺らした。
「…どちらかと言えば黒に見えるぞ」
視線を彼方の海から間近な青へと移しながら、ブルースは答えた。そうかな、とクラークは首を傾げ、海ではなくブルースを見返す。
青と言うに相応しいのは、深まる秋に暗がりを増す海ではない。この瞳だとブルースは思った。そしてこんなに澄明な色合いは、決して自分に似合いはしない。
「でも、凄く似合うと思うけどな」
「似合わない」
「似合うよ。だって」
差し伸べられた手をかわそうと、ブルースは思わず一歩退いた。それに気を悪くする様子一つ見せず、クラークは静かに言った。
「君の目も綺麗な青だ。似合わない訳がないじゃないか」
吹いた強い風に消される事なく、低い声はブルースの耳朶にきちんと響いた。
だけれど聞こえなかった振りをして、ブルースはクラークから顔を背けた。唇を強く噛んで、真っ直ぐに邸へと向かっていく。
「ブルース?」
「戻るぞ」
「うん。ブルース、もしかして青が嫌いかい?」
屈託無くそう尋ねるクラークを、無視する事も出来ただろう。
それでもブルースは視線を上げ、ついついクラークを見返してしまった。
世界中の夏空をかき集めて凝縮したら、きっとこんな色が生まれるに違いない。未だそんな空は見た事が無いのに、それでも不思議と記憶に響く、奇妙に美しい青だ。
「……嫌いな訳が無いだろう」
一人ごちるように呟くと、クラークの顔に浮かんでいた笑みが濃くなった。また何かしら言われるより早くと、ブルースはさっさと歩き出す。
「僕も好きなんだ」
素早くブルースと肩を並べてから、クラークはそう囁いた。