GARDIAN

 クラークがブルースと初めて出会ってから、それなりに長い時間が経った。互いの正体も知った。
 だがブルースには、クラークが未だに知らない部分が幾つも存在している。その隙間を近い所から少しずつ埋めようと、クラークは日々、努力し続けていた。

「紫の服を着て、緑色の髪をした男なんだって?」

 バットケイブ。蝙蝠の巣穴には、今はディックとクラークの2人だけしかいない。主は先程、外で受けた軽い打撲の治療に出て行ったのだ。これ幸いとばかりに、クラークはディックへと話しかけた。

「ジョーカー?うん、そうだよ」
 良かったら写真を見せようか、とディックは続ける。
「いや構わない。…君達の話では危険な男らしいけど、どうも現実感が湧かなくてね」
 毒を流して奇形の魚を作り出したとか、道化の化粧を部下にも強要するだとか――話を聞いても、クラークには今一つ恐怖が浮かんで来ないのだ。

「地球支配に来る異星人の方が、よっぽど怖い気がするんだけど」
「それはクラークがあいつを見ていないからだよ。エイリアンよりよっぽど大変なんだからね!」
 ディックは心外そうに頬を膨らませ、クラークに迫った。
「ああ、ごめんごめん」
「ちっとも分かってないな」
 頭の後ろで手を組んだディックが、じっとクラークを見上げる。その目に含む何かを感じ、クラークは目を細めた。
「何だい?」
「…まあいいかクラークだし。あのね、あいつがブルースに何を言っているか、知ってる?」
「いいや」
「こんな事だよ」
 クラークの前でディックは手を解き、大仰に手を広げた。

「“やあバッツィー、相変わらずキュートで何よりだ!”とか、“今夜の君は最高にセクシーだぜスイートハート”とか――」
「………」
「あとはそうだな、“俺が欲しいのはお前だよ、ベイビー”とか。聞いた話によると真剣な目をして“時計の針が12時を指したら、俺にキスしてくれないか?”って言った事もあるらしいね。――どう?これでもまだ、ジョーカーが危険じゃないなんて言える?」
「……ディック」
 小さな肩に、クラークは両手をそっと置いた。
「すまない、僕が間違っていた。ある意味それは異星人以上に危険だ」
「でしょ?」
「うん、あと君の存在がいかに必要かも良く飲み込めたよ。…これからも彼を守ってあげてくれ……」
「当たり前じゃないか」
 ディックはクラークの手を取り、力強く握り締める。
「だってロビンはその為にいるんだからね」
「頼もしいな」
「そうさ!」
 思わず笑ったクラークの耳に、次の瞬間、軽やかな宣言が轟いた。

「あと、相手があなたでも容赦しないから!」

駒鳥がらみの話を読むにつけ、おそろしい子……!となります。

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