「ありがとうスーパーマン!」
「ありがとう!」
「どういたしまして。今度からは気を付けるんだよ」
茶色の子犬を抱えながら、子ども達はうん、と大きく頷いた。あわやトラックに轢かれかかった子犬を撫ぜてから、その小さな命を救った男は空へと舞う。
心温まる光景だ。嫌味なしにそう思う。夜の闇に潜む自分とは大違いだ。自分に寄せられるものに感謝は無い。恐怖から来る泣き声ばかりだ。
だが決して内面を気取らせぬ無表情のまま、ブルースはこちらへ飛んで来る男に向き直った。
数日後のゴッサムで、ブルースは立て篭もった強盗の手から、人質の少女を救い出した。
大丈夫だ、と言っても少女は呆然とした表情で立ち竦んでいる。5歳前後の幼い顔は、乾いた涙でくしゃくしゃになっている。また泣き出させる事になるかもしれない。僅かばかり怖じながら、ブルースは少女に向かって手を差し伸べる。
少女は手を出さず、スカートのポケットに仕舞い込んでしまった。ああ矢張り、と思いながらも、ブルースは更に手を出し続ける。
その上に、ピンク色の紙で包まれた飴玉が3つ、乗った。
「ありがとう」
真っ赤な唇を動かし、少女が言った。
開いていた手をブルースは握る。小さな、しかし確かな感触がそこにはあった。
「――どういたしまして」
もう片方の手を差し出す。
今度こそ少女はその手を握った。