ウェイン邸にある物は、使用頻度や重要度に関係なく、総じて大きい。その代表的な存在がテレビである。
ディックは今日も、ニュース以外を熱心に見ない主に代わり、電源の入ったテレビの前に腰掛けていた。のんびりコーヒーを啜りつつ、入れ替わる画面を眺め続ける。
「…通販番組だぞ。面白いものか?」
「うん、結構楽しいよ」
案の定話し掛けて来たブルースに、視線を向けぬままディックは頷く。テレビの中では若い女の声が、「レモン絞りも大根下ろしもこの皿1つで!」と大仰に叫んでいた。
「観衆の声が煩わしい上に大袈裟過ぎるだろう」
「馬鹿だなブルース、そのわざとらしさが良いんじゃないか」
本当はそう好きでもないのだが、ディックは挑発するようにそう言ってみせた。背後のブルースに視線をやると、これが、と言わんばかりの仏頂面で画面を見ている。
「…見たらハマるかもよ?」
「冗談じゃない。誰がこんな――」
『次の商品は、目指せ鋼鉄の男越え!』
ブルースがぴたりと口を噤んだ。ディックも反射的にテレビへ顔を向ける。
テレビに映る女性司会者は、満面の笑みでウォーキングマシーンを示していた。
『このファンタスティック・ウォークを1日15分使うだけで、貴方の疲れたボディがスーパーマン以上の肉体に!テレビの前の貴方?鋼鉄の男を羨む前に、まずこちらへご連絡下さい!』
軽妙な音楽と共に、通販申し込み用の電話番号が流れていく。
「……ブルース」
「……何だ」
「メモ取らなくていいの?」
「……お休み」
ブルースは振り返りもせず部屋を出て行った。
その3日後に届いた大荷物の中身なら、透視能力を持たぬ身でも看破出来る。ディックはそう思いながら、黙ってクーリングオフの手続きをした。