「あーもうどうして君はそう頑固なんだ?!」
「お前だって人の事が言えた口か!」

 頭を抱えるクラークに、ブルースは持っていた本を放り出しながら答えた。
 今日も今日とて単純な話であった筈なのに。そう思い返し、ましてや反省する余裕など、今の彼らには備わっていない。
「良いじゃないか朝ご飯を重めにしたって!朝食が1番大事だってテレビでもやっていただろう?」
「大事である事に依存は無いが、お前の言う“重め”は重過ぎるんだ!一体何キロ肉を摂取する気だ?!太るに決まっている!」
「良いんだよ、僕は太らないから」
 その言葉にブルースが眉を跳ね上げる。確かにクラークは太らない。体重制限に苦しむ覚えなど無いのだろう。私怨と分かっていながらも、体調管理に細かい闇夜の騎士は、いよいよ視線を尖らせる。
「ああそうだな、お前は私と違って体型維持が容易だからな。度が過ぎる肉食生活を善良な市民が真似をして体を壊しても、お前には全く影響無いからな」
「刺のある言い方だな。そこまで言う事は無いだろう?君こそ流行りの食生活かもしれないけど、体力が落ちているんじゃないか?」
「どこぞの肉食動物と一緒にしないで頂けるか?」
「草食動物だからコスチュームも兎に似て来た訳だ」
「……」
「……」
 馬鹿にするな、と叫ぶ声がほぼ同時に響き渡った。
「威嚇の必要性も分からん派手タイツ!」
「地味過ぎて怖がられてる黒兎!」
「何だと?!」
「何だって!」
 喧々諤々の言い争いも、傍から聞くと大した事の無い話ばかりなのだが、勿論ブルースもクラークも気付かない。その調子で埒も無いやり取りを続ける事15分。2人はようやく口を噤んだ。
「…今度と言う今度は呆れ果てた」
 クラークに比べて若干枯れた喉から、ブルースは囁きに似た声を絞り出した。
「僕もだ。初めて意見が合ったな」
 そう返すクラークに、躊躇いなくブルースは言葉を投げ付ける。
「別れよう」
「ああ。それじゃあ――」
「さあ、今すぐやれ!」
 踵を返したクラークが、その言葉にぴたりと足を止め、肩越しに振り返る。
「…何をやれって?」
 きょとんとしたクラークが首を傾げるよりも早く、ばん、と机を叩いてブルースは叫んだ。
「今すぐ地球の周りを全速力で飛んで、私達が出会う前に時間を戻して来い!そして2度と会うな。会ったら私はまた性懲りも無くお前と付き合うぞ!」
「分かった、僕が悪かった!」
 そう答えたクラークが全速力で飛んだ先は、当然大気圏の方角などでは無かった。



「…アルフレッド、何で僕らは朝早くにダイニングから閉め出されているんだろうね?」
「それが紳士の嗜みと言うものでございますよ、ジェイソン様」
 鈍い音を最後に押し黙ってしまった扉へと、ジェイソンはどこか物悲しい一瞥を投げ――そっと静かに背中を向けた。

喧嘩は平和の証拠です。

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