12月24日/海上 6

クリスマスまで後2分。船はまず警察に迎えられた。それでも市民はクリスマス・ツリーの元から去ろうとしない。甲板にある星を見て、何も知らない彼らは一斉に歓声を上げた。待ちかねていたのだろう。

「良かったな、無事に済んで。日付変更には間に合わないだろうけど」
何とか回復して来たスーパーマンは、その光景を見下ろして笑った。

「……」
「どうした?」
半ばバットプレーンに乗り込んだバットマンは無言だった。スーパーマンが見ると、何か考え込んでいるような顔だ。先程まで無線機に向かって何か話していたが、そのせいだろうか。

「…トゥーフェイスは、2という数字に拘るヴィランだ」
「ああ、そうだったね」
「こうは思わないか?」
「え?」
スーパーマンは思わず眉を潜めた。この上何があると言うのか。

「今日食い止めた事件に関与しているのは、ゴッサム側のヴィランだけだ。ゴッサムからの星に爆弾を仕掛け、ゴッサムの犯罪者2人がメインとなった。だが私が彼なら、“2つの都市”という事にもっと拘る」
「まさか、メトロポリス側にも何か仕掛けがあると?」
「彼の犯罪経歴から考えると、そこまで大きな事が出来るとは思えない」
だが、とバットマンは続けた。

「彼は、クリプトナイトを持っていた」
「―――ツリーを調べよう」
スーパーマンは目に集中した。ツリーに焦点を合わせる。

「…バットマン、ツリーの心棒は何製だ?」
「鉄棒だと聞いたが」
「鉛製だよ。何も見えない!」
「タイマーの音は聞こえるか!?」
市民の時計の音に混じっているが、確かに聞こえる。音が星に仕掛けられていた爆弾と同じだ。

「間違いない、あれも爆弾だ」
「解除している暇はないぞ!」
「僕が行く」
バットマンの鼻先を、赤いケープがすり抜けた。
「市民や警察には君が説明してくれ、バットマン!」



ツリーに取り付いた鋼鉄の男に、ギャラリーが再び沸く。が、すぐにそれは戸惑いの声に変わった。
全長75mのツリーが、徐々に持ち上がり始めたのだ。一体何をする気なのかと、警察も唖然として見上げている。頭の横でくるくる指を回す者もいた。
「危険だ!下がれ!」
思わずバットマンは叫んだ。船から飛び降り、ツリーへと駆け寄る。その姿を見た者達は悲鳴を上げて避けた。

次の瞬間、コードや飾りを全てぶら下げながら、ツリーが飛んだ。
コードが千切れたせいでイルミネーションが消える。急に暗くなった周囲は、バットマンにとって幸いだった。



「くっ……!」
クリプトナイトの影響はスーパーマンの体内にまだ燻っている。腕の力が抜けそうになるのを叱咤して、バランスを取りながらスーパーマンはメトロポリス港を出た。
海の中で爆破させるか?しかしここは余りにメトロポリスに近い。その上、クルーズに出ている船や、出動して来た海上保安局の船があちこちに浮かんでいる。
下が駄目なら?

「…上だ」

飾り付けが零れないよう注意を払い、バランスを取る。ツリーにぶら下がった電球やサンタは、1つ1つがスーパーマンの顔以上の大きさだ。これがぼとぼと落ちるだけでも十分危険である。

残り1分。
大気圏まで持っていくのは無理だろう。だが行ける所まで行かなければならない。スーパーマンは高度を上げた。



海上の何も知らない者達が、空へと向かうクリスマス・ツリーに仰天する。
海運組合のお偉方達が、両都市の市民が、目を見張る。
ロイスはその行方を、分からないなりに祈るような気持ちで見つめていた。
そしてセリーナは、ツリーの後を追って飛ぶ蝙蝠の姿を、確かに見たと思った。

残り―――ゼロ。

メトロポリスからも、ゴッサムシティからも、それははっきりと見る事が出来た。 金と赤に彩られた爆発が、クリスマスの夜空を照らし出した。

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